洋漫館


「コラン・マイヤール(目隠し鬼)」マックス・カバンヌ

 1947年、南仏生まれのカバンヌは、元々イラストやデザインの仕事をしていたが、次第に雑誌を転々としながらコミックを描くようになった。やがて86年頃から、自身の思春期を題材にした「コラン・マイヤール」シリーズを描き始めた。この作品は90年のアングレーム国際漫画フェスティバル大賞を受賞し、彼の代表作となった。
 
 私が初めてアングレームに行ったのも実はこの年で、彼の描くカラーインクの色使いに、かなり衝撃を受けた記憶がある。経歴からも分かるように結構遅咲きの作家だが、ヨーロッパの作家には珍しいことではない。
 その数年後、南仏のソリエスで開かれた漫画フェスティバルで本人に会った時、私が自分の漫画本を贈呈したら、すぐに自分の本に私の漫画のキャラを描いてお返ししてくれた。これだから、海外の作家と付き合うのは楽しい。
 
 「コラン・マイヤール」は日本でも翻訳され、91年からミスターマガジンに掲載された。しかし、印刷事情の違いから微妙な色が再現されていないのがとても残念だ。
 
 

「小さなノエル(リル・サンタ)」チェリー・ロビン(ロバン)


 チェリー・ロビン(ロバン)(1958仏)は実に多才な漫画家だ。「中国の紅」(1991~1996)や(妖怪ハンター)「コブラン」のような達者な筆使いのバンド・デシネも描けば、「小さなノエル」(1998~)のような児童漫画も描くし、作曲もしてCDも出している(同じ名前のミュージシャンがいるが、それとは別人)。特に、ルイス・トロンヘイム原作による「小さなノエル」シリーズは吹き出しが一切無いコマ漫画で、世界各国に翻訳されている。米国では「リトル・サンタ」として出版されているので、いずれ日本でも目にする日も近いだろう。
 彼とは1991年に仏のアングレーム国際漫画フェスティバルで初めて会ってからの友人だが、勝川氏と共に彼の取材に協力したり、彼が編集した「スピロウ」のクリスマス特別号に我々が寄稿したりという関係が続いている。
 彼の個人サイト:http://www.thierryrobin.com/accueil.html


「BIG GUY」ジョフ・ダロウ(ジェフリー・ダロウ)


 今や映画「マトリックス」のコンセプチュアル・デザインで有名になったジョフ・ダロウは恐ろしく緻密な線画を描くコミック・アーティストだ。何が凄いって、第一原稿の大きさからしてB2もあるからね。もうビックリしちゃいます。こんなに大きな原稿を描くのだから、さぞや時間が掛かるだろうと思ったら、これが意外と早い。四六時中絵を描いている様な人だから、手が勝手に動くのでしょう。
 この「BIG GUY」は日本の怪獣映画をモチーフに原作のフランク・ミラーと手を組んで描き上げた巨大ロボット漫画。日本を舞台に怪獣とロボットが死闘を繰り広げる大スペクタクルは、怪獣ファンならずとも必見の価値あり。私も作品中に友情出演しています。


「謎の都市」「サンビオラの中心に」フランソワ・スクイテン(シュイッテン)    


 ベルギーのフランソワ・スクイテン(シュイッテン)は建築家の家に生まれた影響もあって、建造物を中心に据えた非常に硬質で縦長な絵を好んで描く。とにかく、建物の構造的ディティールの描写においては右に並ぶ者がないという、非常に特異な作家だ。なにしろ、そのために本自体が縦長になってしまうくらいだから、恐れ入る。兄のリュック・スクイテンも絵を描き、その影響も強く受けているらしい。
 
 代表作は「塔」や「傾いた子供」「見えない国境」などを含む「謎の都市」シリーズや「変身」シリーズ、「くぼんだ大地」シリーズで、前近代的な空想都市の物語を描き出している。
 
 近年カステルマンから出版された「デソンブルの事」には、なんとスクイテン自身の創作活動を映像に収めたDVDが付いている。フランスは地域コードが日本と同じ「2」なので、パル方式など関係ないPCでちゃんと観ることが出来る! 

「サタンの涙」アレックス(アレキサンダー)・ニーニョ

 「世界一のコミック・アーチストは?」と問われたら、迷わずメビウスと答えるが、「世界一上手いコミック・アーチストは?」と問われたら、まず頭に浮かぶのがアレックス・ニーニョだ。
 1940年フィリピンのルソン島で生まれたアレックス・ニーニョは、医学生の頃その絵の才能を見出され、1959年に最初の作品を発表した。当初はネストール・ルドンド風のタッチでフィリピンのコミック紙に描いていたが、その後米国に渡り「1984」等の雑誌に独創的な作品を発表した。
 ここに紹介する「サタンの涙」は1977年に刊行した作品集(千部限定)で、ウォレン社から1978年度最優秀アーチスト賞を贈られている。
 日本には「スターログ」紙でアスカ蘭によって紹介されたが、私もアスカ氏を通じてニーニョと知り合うことが出来た。とにかく希に見る才能の持ち主で、卓越したデッザン力はもちろん、奇抜な色彩や発想には常に驚かされる。新しい絵柄や技法の開発にも貪欲で、次々と絵のタッチを変えているのが、今一つ有名になりきれない要因のひとつではないかと思う。サインまで次々に変えるから困るんだよなあ。



「傭兵」ヴィンセント・セグレル


この「傭兵」シリーズは、スペインの画家ヴィンセント・セグレルが描く驚異のコミックだ。原寸大のキャンパスに油絵の具で一コマ一コマ写実的に描写する幻想世界は、まさに圧巻の一言。どのコマを切り取っても一枚絵として十分通用する画力にも驚くが、その労力と執念にはとにかく恐れ入る。セグレルは1936年生まれだが、コミック作家としてデビューしたのは1981年になってから。コミックとして描いているのはこのシリーズだけだが、果たしていつまで続くのだろうか?

「HELLBOY」マイク・ミニョーラ

 日本の漫画家やアニメーターの多くが現在最も影響を受けているであろうコミック・アーティストがアメリカのマイク・ミニョーラだ。光と陰のコントラストによる彼のタッチはアメコミ本来の特徴ではあるが、むしろ彼の真骨頂はその独特なデフォルメと渋い色彩にある。彼の代表作「HELLBOY」は怪僧ラスプーチンによって地獄より呼び出された悪魔が主人公で、アメリカの秘密機関「B.R.P.D.(超常現象調査局)」のメンバーとして、世界中の悪魔やモンスターと戦っている。つまりアメリカ版「悪魔くん」というワケだが、「パンズ・ラビリンス」のギレルモ・デル・トロ監督によって2度映画化され、日本でも結構認知されるようになってきた。

「MURMURE(囁き)」ロレンツォ・マットッティ


 マットッティは1954年イタリヤ生まれのBD(フレンチ・コミック)の作家だ。全編オイルパステルとアクリル絵の具で描かれた彼のコミックは、とにかく色彩とデフォルメ描写が素晴らしい。日本の画一化された技法に慣れ親しんだ人々には、これが漫画だということが信じられないかも知れないが、BDに表現の制約はないのだ。「MURMURE」は私が初めて読んだマットッティの漫画で、かなりのカルチャー・ショックを受けた覚えがある。意味は分からなくとも、絵を見ているだけで感動する。




「外宇宙の記憶」エンキ・ビラル
 

 旧ユーゴスラビア生まれのエンキ・ビラルは「ピロット」誌でデビューし、「外宇宙の記憶」などの短編を発表した後、ピエール・クリスタンのシナリオで描いた「現代の神話」シリーズで才能を開花させた。そして、「不死身のカーニバル」「罠の女」「冷たい赤道」のニコポル3部作で不動の地位を築いた。また映画監督としても「バンカー・パレス・ホテル」や「ティコ・ムーン」「ゴッド・ディーバ」を撮っている。
 このように多方面で才能を発揮しているビラルだが、その作品は政治色が強く、どこか暗く混沌としている。それも恐らく、ユーゴスラビアで政治紛争の最中に育った、暗い少年時代の経験が反映されているのだろう。
 だが、パリのアトリエで会ったビラルは、決して作品のように陰鬱ではなく、自信にに満ちた二枚目だった。



「SKY・DOLL」バルバラ・カネパ&アレッサンドロ・バルブッチ



 バルバラ・カネパは1969年、アレッサンドロ・バルブッチは1973年、共にイタリアのジェノバに生まれて、ふたりともイタリアのディズニーに入社して、出版の仕事などの従事した。
 
 ディズニー時代に出版した「WITCH」は500万部を越えるヒットを飛ばし、その後ふたりとも独立して「SKY・DOLL」を描き始めた。「SKY・DOLL」はノアというセクシー・アンドロイドが主人公のSFコミックで、宗教や政治といったテーマをコミカルかつ丁寧に描いている。何より注目したいのは、イタリア人らしいカラフルな色遣いで、ピンクと青が同居した色合いなど、他のBDと比べても結構異彩を放っている。「SKY・DOLL」は現在3巻まで出版されていて、アメリカのマーベル社でも英訳本が出て大ヒットしたそうだ。
 
 また、ふたりとも子供時代から日本のアニメを観て育ったそうで、ふたりの作品には日本のアニメや漫画の影響も少なからず見られる。このように、最近のBDでは日本のアニメや漫画の影響を受けた作家が増えてきている。