AUGUST2010
Diary

8月1日「インセプション」

 コブ(レオナルド・ディカプリオ)は標的の夢に入り込みアイデアを盗む産業スパイだが、ある時、日本人実業家サイトー(渡辺謙)から奇妙な仕事を依頼される…。
 
「夢から覚めてみたら、それも夢だった」という経験は誰にでもあると思いますが、それを夢の階層化としてとらえたアイデアは、ユングの集合的無意識とも違い、斬新でユニークな世界観を構築しています。観客はこの世界観をまず理解しなければならないのですが、映画はやや不親切ながらも、具体的かつ簡潔に、非常に上手く脚本に絡ませて説明していきます。ただ、提供される情報量があまりに膨大なので、一度観ただけでは充分理解することは困難だと思います。その意味で、これはかなりマニアックで実験的な作品だとも思いますが、そんな作品に膨大な資金をかけられたのも、やはり「ダークナイト」の成功があってのことでしょう。

 また、夢の世界ということで凄い映像ばかりに注目が集まりそうですが、この脚本の巧みさは見事で、全編にばらまかれた伏線の数々がラストに向かって一気に収束していく様は、観ていて爽快であり、ある種の感動さえも呼び起こします。このあたり、「メメント」で見せたクリストファー・ノーランの緻密な脚本術の面目躍如といったところでしょう。
 
 なお、劇中に登場する雪山の病院施設とスキーを履いた警備隊のシークエンスは監督自ら好きな映画ベスト10にあげている「女王陛下の007」へのオマージュでしょうし、無重力シーンは同じくベスト10にあげている「2001年宇宙の旅」を想起させます。そんなわけで「インセプション」は、実は監督自身の夢を具現化したものと言えるかもしれません。
 
 ☆☆☆☆☆★★★★
 (ただひとつ解せなかったのは、ケニアのモンバサのシーンをモロッコで撮ったことです。何故でしょうか?)